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俺の弟は俺の母さんによく似ている。
俺はと言えば、顔も中身も全然似ていない。それなら親父にそっくりか……と聞かれれば、それもノー。むしろ正反対だ。当たり前だ。
俺は別に親父を嫌っていたわけではないけれど、あんな大人にはなりたくないと常々思っていたわけだ。第一あんなのになろうと思ってなれるものじゃない。
弟は、俺の親父に少し似ている。
本来似ているはずがない。似るはずもない赤の他人だ。けれど時々彼は、彼に似ていると……そう思う。
ふとした瞬間。俺が自分に似ていると感じる男は、弟にとっての父親だ。
本来似るはずもない。血の繋がりもない赤の他人だ。
だから人を形成するのは血でも環境でもないのだろう。それはそれに大きく関わるだろうけど、人の本質までは変えられない。たぶん、そうなんだと思う。
だから彼がああで、俺がこうなのも偏に何かの才能なんだ。だとしたら、人が道を踏みはずのも、血や環境ではない。きっとそれも……誰かに与えられた負の才能なんだろう。
弟は人間好きで人間嫌い。嫌悪する人間に近寄り、好感を抱く相手から距離を置くという、一風変わった性質の持ち主。この辺は母さんとは似ていない。それもそうだ。母さんには毒なんて厄介なモノは無かったんだから。親父が言う母さんは、嫌いな相手にも近寄り、好きな相手にも近寄るような人だった。一概に近づくとは言うが、弟と母さんではその意味がまるで異なる。後者は基本的に相互理解のため。前者はと言えば……排除のためだ。人を癒す正の才能、壱の数術使いだった母さんは、その治癒術で多くの人の命を救ったが、弟は……人を殺める負の才能で、多くの人間の命を奪う。
よく似ているのに、同じように生きられない彼を可哀想にと俺は思う。けれど弟は道を見出した。彼の行いが、彼の父親と同じものでも……彼の本質が母さんと同じだと信じられるから、俺もまた同じ道を歩くことに迷いはない。俺は両親のどちらにも似ていないから、俺の世界はとても小さく、狭いものだと自覚している。それでも俺の代わりに弟が広い視野と世界を持っているから、彼に従っていれば俺は道を踏み外すことはない。きっとそうだ。
殺しを終えた後の弟は、相手がどんな極悪人でもしばらく憂鬱に沈む。何を言っても心ここに在らずと言った風だ。
けれど、時々……そうならない時もある。その時彼は、笑っている風でさえあった。彼がそんな風に浮かれることは稀だ。滅多なことでは彼は笑わない。己を嘲笑う自虐的な笑いならともかく、おかしそうに、嬉しそうに笑うことなど……本当に稀だ。
「…………で?なんでそこで私の所に来るのよ」
行きつけの酒場、影の遊技者。いろいろあって最近あんまり来てなかったせいで、店主の機嫌を損ねた……というわけではない。彼女が不機嫌なのは、彼女もいろいろあったから。その一言に尽きる。
「だって!聞いてくれよディジット!!」
「嫌よ」
「俺とお前の仲だろ?」
「さぁ、何の仲だったかしら?腐れ縁?居候と家主?」
「うう、ディジットまで冷たい……」
「でも、そうか。そうなのかもしれないわねぇ……」
「え??何々?何か心当たりでもあるのかディジット?」
「アスカ、いくら何でも野暮ってものじゃない?」
「え?」
「あー……あんたも大概疎いわねぇ。それはねぇ、ズバリ……」
「ずばり?」
「恋よ!乙女の勘的に」
一瞬なんて言われたか解らなかった。
それくらいそれは“彼”からかけ離れた単語だったのだ。
「は!?え!?こここここここここここここここここここ……恋いいいいいいい!?」
俺がその言葉を反芻しようとした時、腹部に襲いかかる激痛。みぞおち真ん中思いっきりに頭突きを噛ました阿呆がいる。
小柄な子供の姿に騙される事なかれ。こいつ何気に俺とそんなに年変わらないんだから。
「うぇええええええええええええええええええええええええええん!リーちゃんの馬鹿ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!僕というものがありながらっ!アスカ君んんんん!うわぁあああああああああああああああん」
「痛い、痛いっ!止めろトーラっ!つかトーラ鼻水俺の服に付けんな!」
俺の制止の声にも聞く耳持たない混血情報屋。髪飾りとかフードに付いてる耳は飾りか?顔の横にもついてるそれも飾りなのか?
「飲んだくれが増えたわねぇ……うちの店も」
呆れたような店主の声。いやマジで痛いんですけど。別にじゃれてるわけじゃないんだけどそういう枠組みに入れられているみたいだ。
それから俺はなんとかトーラを振り払い、舌先三寸で冷静さを取り戻させ、状況分析を行うことにした。
「と、とりあえず状況をまとめてみるぞ。虎娘、なんか情報あるか?」
「確かにリーちゃん僕と仕事してた時もたまーにそういうウキウキ気分の時あったよぉ。一体何処の馬の骨が僕のリーちゃんにちょっかいを……」
「お前のでもないからな。俺の了承無しにうちの子をやれるか」
「うわー……アスカ君うざいー。このブラコン」
「無論、褒め言葉だ」
「うわ……この人開き直りやがったー。しばらく一緒に居られなかったらって頭の螺子何本かぶっ飛んじゃったんだね……ご愁傷様」
良い切り返しが思いつかなかったので、なんとなく闇医者の言葉を真似してみたのだが、トーラにはなかなか不評なようだ。
店主のディジットまで俺を変な目で見ている。いや、見た後に何やらいい笑顔でしきりに頷いている。訳がわからない。
「そんなことより、だ。その期間で出会った奴らでなんかそれっぽい奴はいたか?」
「ちょっとあんた達、いくら何でも詮索は野暮じゃない?あの子だってそれくらいの権利は……」
「いいや!だってディジット、考えても見ろよ?あいつはあの身体だぞ?毒人間だぞ?普通の相手に惚れたって絶対上手くいかない!それで傷つくのはあいつだろ!?そんなの俺は見てられねぇぜ!」
「じ、じゃあ……そ、そうよ!普通じゃないのかもしれないわよ相手も!」
「普通じゃ、ない?」
「そ、そうよ。きっとそうよ」
「尚更許せん!普通じゃない人間ってなんだよ。変態か?変人か?変質者か!?」
「お、落ち着きなさいよアスカ!だからあのね、そうじゃなくて」
「く、くくく血祭りに上げてやる!変態は何処だ!!」
「もはやあんたがブラコン通り越して変態よ」
「あはは、ディジットさん。恋する乙女は基本的に何やってもフリーダム。愛の名の下に全ては許されるんだ、それがセネトレア流の愛情表現さ」
「もう……トーラまでなんてことを言い出すのよ……アルムがまた変なこと覚えたらどうするの。はぁ、頭が痛い……」
「トーラ、なんか今の発言は変態貴族共の理屈に似てるような気がしないでもないが、今回は不問にしよう。で?やるのは何時だ?」
「そうだね。殺すなら早いほうがいいね。うん」
「ちょっ……!あんたら何言ってるの!?何で殺すこと前提なのよ!?」
「ごめんねリーちゃん……これもリーちゃんのためなんだよ」
「たまには意見が合うな虎娘……」
「いい加減にしなさいっ!」
顔も知らない相手の暗殺計画を練る俺たちの耳に届いたのは、バシャという音。水桶の水が思いっきりぶちまけられたらたぶんこんな音がするはずだ。
店主の手にはからになった水桶が。床に散乱しているのは床拭き用の雑巾と……
なるほど、どうやら例え通りのことが行われていたようだ。雑巾の一枚が俺の視界一部を覆っていた。湿り気で伸びた前髪とともに、俺はその真実を受け入れた。
「まったく……少しは頭冷えた?」
「冷えましたけどディジット、何も頭から冷水ぶっかけることはねぇよな?」
「そうそう。確かに僕は水も滴るいい女的なあれかもしれないけど」
「残念、それは幻覚だ」
「アスカ君酷いー」
「で、……話を戻すぞ。あいつが一人で暗殺やってた頃って、あいつのことだしいろいろ失敗もあったんだろ?あいつ運悪いし」
「そうだね……結構あったねぇ。そうそうそんな風に仕事の途中で運悪く出会った女の子とかもいたけど、それって基本的に標的の関係者でしょ?リーちゃんはそういう子は殺したがらないから姿を見られた場合は僕が対人情報操作で何とかしたりとかして記憶操作してたけど。僕の数術破れる奴なんてこの国には居ないだろうしその線は薄いね」
「なるほど。親の仇討ちな感じで迫ってきたお嬢さんとフォーリンラブ的な展開はないと見ていいな」
「それにねぇ……リーちゃんは生きてる子より死んでる子の方が好きっぽいしねぇ」
「あいつネクロフィリアなのか?」
「それアスカ君にだけは言われたくないと思うよ」
「なんで俺なんだよ。俺は普通に生きてる女の子が好きだぜ。ディジットとか、ディジットとか、ディジットとか」
「ふぅん……まぁ、僕が言いたいのはそういうことじゃなくて。思い出は美しい物だよねって。死は停滞でしょ?だからそれ以上に幻滅することはない。そして思い出は日々美化されていく。だから死人に想いを寄せる相手に生者は絶対に勝てないんだよ」
「それとあいつになんの関係が?」
「リーちゃんはさぁ、仕事で見逃した子よりも……仕事で殺しちゃった子の方がタイプだって事だと思うよ」
「標的がいくら極悪人でもねぇ……子供にとって親は親。そういう最低な奴の子も最低だったら簡単なんだけど、そうじゃない場合ってのも世の中にはあってね。殺したくなくても殺さなきゃいけないときってあるわけ」
「だからねぇ……あの時は動揺しちゃったけど、僕が思うにそう言う相手ってリーちゃんにはあり得ないと思うんだよ。そういう好感を覚えた相手を思い出しても沈んじゃうだけでしょ?だからウキウキするわけがないんだ、その好感が百歩譲って好意だったとしたってね」
「リーちゃんが好きなのはさぁ、多分お嬢さんじゃないかなぁ……瑠璃椿って名前をくれた子」
「……ああ、あの子か」
「こんなに尽くしても好きになってくれないのにさぁ……コロッと死んじゃった子のことは思い出したりしてあげてるわけで、一生忘れないわけでしょ?それってなんか狡いなぁ」
「トーラ……」
「ま、僕は頑張るけど。一日でも長く生き延びて、隣にいて、僕がどんなにいい女か解らせて、振り向かせてやるんだから。生き続ける限り夢を見ることは許されるんだってリーちゃんが言ってたんだもん」
「しかし、だよ。世の中何が起こるか解らないのが世界ってものだよ。心当たりがねぇ……ないわけじゃないんだよねぇ」
「恋では……無いと思うけど。無いと思いたいけど。無いんじゃないかな?無いと良いな、うん」
「でもリーちゃんが好感覚えてるっぽい子、居るんだよねぇ……」
「はぁ!?」
「思えばあの子に会った後はいつも嬉しそうだったなぁ」
「何だって!?そんな大事なことを何で先に言わないんだおまえは!!で!?そいつは一体……」
「殺人鬼Suit……リーちゃんの天敵だよ」
トーラから差し出されたのは一枚の写真。そこに写る人物には、俺にも見覚えがあった。あった。あるにはあったが……
「な、何でこいつなんだ!?」
「ねぇ、だからそうじゃないといいよねぇ。でもセネトレアって業が深いからなぁ、そう言う展開も有り?」
「その辺は個人の自由じゃないかしら」
「何いきなり目が輝いてるんだディジット……」
*
その人物を尾行すること数日、その日は訪れた。
弟はいつもの仕事服で全身黒ずくめ。それに仮面で素顔を隠した不審者ルック。それでも月に照らされた髪は彼が普通ではないことを物語るには十分過ぎる色。片割れ殺しの混血、銀色の髪。
「親愛なるライル、元気そうだな」
「また貴様か殺人鬼!俺の家に予告状を送りつけるのも大概にしろっ!」
「失敬な。あれは予告状ではなく果たし状だぞ?ああ、それともライルさんはあれか?恋文の方が良かったのか?これは失礼。次回からは気をつける」
「俺をからかうのも大概にしろ!」
「やれやれ……そう怒鳴っては騒音で自ら自身を牢へ送ることになりかねないぞ?」
「ぐ………だ、大体貴様は!」
「おお、そこはかとなく小声だな。素晴らしい」
「予告の半数以上が大嘘ではないか!俺を過労死させるつもりなのか!?俺の休日ばかり狙うとは悪質なっ!犯行時刻も日付もいい加減ではないか!!朝から張り込みをしていた俺が馬鹿みたいだ!」
「あー……あいつかー」
「ねぇ。流石にあれってことはないだろうし。唯単にお気に入りってだけだと思うよ」
「しかし意外だな」
「リーちゃんって何気に人からかうの好きだからねぇ。立場が立場だから、そういう相手があんまいないってだけで。絡みやすいんだろうね彼みたいな性格」
「だからって普通……天敵からかいに行くか?」
「彼は敵だと思ってないのかも」
なるほど。
まず、そう思った。
同時に似ているな、と思った。性格は似ていない。親父はもっと冷静だったし、ことに戦闘に置いては俺と同じ勝てば官軍思考で卑怯な戦術だって使った。あの少年は親父以上に真っ直ぐすぎる。
だけど、似ている。
たぶん、人としての本質が。
なるほど。
再びそう思わせられた。
それがそういうものではないとしても、それはあり得ない話ではない。
マリー様が親父を気に入ったのなら、彼女によく似た弟が、彼を気に入るのも仕方のないことだろう。
だけど。
だけど何も聖十字にちょっかいかける必要はないだろうに。あいつは自分が教会から追われているのを忘れたのか?
いや、覚えているよな。変なところだけ母さんと真逆だ。
気に入った者を追いたがる癖があるのが母さんで、弟は気に入った者に追われるのが好きなんじゃないかもしかして。なんか、去り際のあいつはとてつもなく楽しそうだった。
逃げおおせても、捕まってもどっちでもいい。そんな風に俺は感じた。
「楽しそうだな、あいつ」
「テンション高いねリーちゃん。完全にSuitモードスイッチ入ってるよあれは」
「なんかむしろあっちがあいつの素なのかもしれねーな……」
「確かにね……いくら仲間だって言ってもさ。僕らと彼とじゃ背負ってるものが違うんだもの。思ってること全てを言葉になんか出来ないよね。その分彼はいいのかも」
「仲間でもない。違う道を歩いている他人だ。だからこそ、言える言葉が言われる言葉があって……それが彼を救っているのかも知れない」
「悪いな、トーラ。さっきの……なんとなく解った」
「でしょ?」
「確かに腹立つわな、それは」
傍にも居ない。本当のことなんかきっと何も知らないだろう。味方か敵かと言われたら間違いなく敵。それなのに、自分よりあいつを理解していて、意図せずあいつの望む言葉を紡ぎ、あいつを救っているのだろう。
それが意図的なものだったらどうにでもなるが、無意識というものは質が悪い。これもある種の才能だ。
俺がその真似をしようとしたらそれは意図的なものになる。それじゃああいつは救われない。
俺では同じ道を歩くことは出来ても、あいつを救うことが出来ない。
それなら、どちらが良かったのか。そう聞かれても、俺は返答に困る。
でも、たぶん俺は今と同じ場所に収まるんだろう。
多少の自覚はあった。だけどそれをこうも突きつけられると流石に痛い。
あいつのため、あいつのためと言いながら思いながら。それは結局俺のためでしかなかった。
本当にあいつのことを思うなら、俺はあいつとは別の道を歩き、あいつの望み通りそれを捌くのが……あいつにとっての救いなんだろう。
だけど、そんなこと俺には出来ない。
あいつが捌かれたいと願っていても、俺はあいつを許す。
あいつが死を願っていても、俺はあいつの生を望む。
そうやって、そうやって……俺はあいつの望まない方向へと足を踏み出す。こうして同じ道を歩いていること自体、あいつを苦しませているかもしれない。
とんだお笑いぐさだ。救いたいんじゃない。救われたくて、俺はあいつの傍にいるんだ。
自分の暗く沈んだ心を見つめる度に、思い出すのは似てない親父のこと。
年を重ねる毎に面影は似てきているかもしれない。だけど、中身は似てもにつかない別物の……彼。
似てきた外見だって、全然違う。そう思わせるのは……そう、目だ。目が違う。同じ色の瞳でも、俺はあんなに真っ直ぐに光る輝きを宿せない。
「アスカ君、なに沈んでるの?そんなにショック?」
「なぁトーラ。お前はあいつのこと、どんな風に好きなわけ?」
「どんなって?」
「それはさ、おまえのためか?あいつのためか?」
「そりゃ当然、僕のためだよ」
「お前も俺か」
「時にアスカ君。愛にはいろいろ名前はあるけどね、友愛から恋愛、家族愛に姉弟愛。その全てに共通するものってわかる?僕が思うにそれは自己愛だよ」
「僕はさ、博愛って奴だけは愛に分類したくない派なのさ」
天下の情報屋様は肩をすくめてそう言った。子供なのは外見だけ。
俺より世界を知り尽くしている彼女が言うから、それは説得力があった。
「結局何でもかんでも好きって人は、本当の意味ではだぁれも何とも思ってないんだよ。少なくとも愛してはいない。想っているかもしれないけどね」
「だから全てを救いたいだなんて本気で思うような馬鹿は、見てくれだけだよ。そうすることで、誰かから好かれたいんだ。それは結局、行動動機が自己愛ってことだよね?」
そうだろうか?いくら彼女でも、それは言い過ぎなんじゃないか?
少なくとも俺はそういう馬鹿を何人か知っている。
さっきの聖十字、それから子供置いてあっさりくたばった……俺の馬鹿な親父とか。
「確かに君の父さんも母さんも、多くの人を想っていたかもしれない。救おうとしたかも知れない。だけど君も死者を美化しすぎだよ。所詮、人は人以上になんてなれやしないんだから」
何をするにもしないにも、そこに至るまでの過程はある。
理由、動機。そういうものが無ければ人は本当の意味で何も出来ない。
行動には裏がある。
人間誰もが100%、自分と他人を偽らず、生きていけるわけがない。
トーラはそう言った。
言葉は真実ではない。行動も真実ではない。それを真に受けるのは馬鹿のやることだと。
「リーちゃんも同じだよ」
ぽつりと付け加えられた名前。
「彼は自分が大嫌いだ。だからさ、あれも自己愛なんだよ」
誰も想うことが許されない弟は、自分さえ未だ思えていないのだ。
「せめて死ぬ日には、自分を少しでも好きになれるように。そのために彼は自身の理想のために戦ってるんだよ?いくら多くの人に好きだって言われてもさ、自分が自分を嫌いなままじゃ……笑ってなんか死ねないんだろうね」
「だから別にアスカ君が悪いとか間違ってるってわけじゃないんだ。僕も君も……よくある何処にでもある人間の思考を持っているだけなんだから」
「……はぁ、ご高説ありがとよ」
「うわーなにその迷惑みたいな顔……」
トーラがふて腐れている。だが誤解だ。しかし呆れすぎて誤解を解く気にもならない。
親父が法に縛られマリー様を守れなかったんなら。
俺は法を破れば、あいつを守れるんだと思ってた。
確かに守れるだろう。少なくとも死なせはしない。
死なせるくらいなら、あいつの敵を全てこの手で叩き斬る。
(難しいな……)
それじゃああいつの心は守れない。俺では救うことが出来ないんだ。
俺が斬った人間の数。
俺自身はそれを気にはしないし、手を汚したことより、主を守れたことを喜ぶ気持ちが強い。
それがあいつ自信を追い詰め、傷付けている。
かといって戦わなければ、失うのは目に見えている。
どうしろっていうんだ、俺に。
「三度目は御免だ……ったく」
「?二度あることは三度あるっていうけど、どうかしたの?」
「縁起でもないこと言うなって……はぁ」
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